2007年05月27日

【日記】星新一

星新一の本を買った。「天国からの道」(新潮社)。
若人に馴染みがあるかどうか分からないが、我々の世代では国語の教科書にその作品が載っていたり、「ストーリーランド」というTV番組でアニメ化されたりもしていたので馴染み深い。
この本、初版が平成17年とあるから、没後約10年の"新刊"である。
下世話な話をすれば、売れるから出すのである。要するに未だに根強い星ファンが多いのだ。そんな出版社の思惑に見事にハマってる俺も、間違いなくその一人。

さて、「天国からの道」は星さんにしては異例な作品が多く、違和感を覚えつつ読み進めた。露骨な性表現や、恋愛ものなどなど。
今回はその恋愛ものの一篇、『火星航路』に注目してみたい。

エリート故に恋愛から距離を置いていた男女が、火星に向かう永い宇宙飛行の退屈しのぎにラブレターの交換という遊びを思いつき、続けていくうちに意識に変化が表れるといった内容。
あっさり書くと月並みな印象を受けられると思うが(実際内容そのものは月並みである)、星さんの手にかかれば極上の純愛物語となる。

これを読んで、昨今の純愛映画ブームに一言言いたくなった。
死とか不治の病とかいった飛び道具を持ち出さなければ愛を表現できないような作品は駄作であると。死ななきゃ示せない愛は、いったい誰を幸福にするというのか?
わずか50ページの『火星航路』で描かれる世界には、なんの危機も悲壮もない。男女の心の変遷を簡素かつ丁寧に淡々と描写するのみである。
それでも結末の爽やかさ、愛の賛美は、上述の映画よりも良質である。
ハッピーエンドであるからというだけではない、プロットとして何を読者に提示すべきか、その心得が星さんは秀逸なんであるなあ。

星新一といえば寓話的なブラック・ユーモアという印象が強かったのだが、『火星航路』でこの作家の文章の質の高さに改めて感服した、というお話でした。
タグ:
posted by Huwy at 14:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。Aoと申します。
早速ですが、同意です。

私も星新一氏の作品を数多く読んでいる一人です。
何年か前に火星航路を読んだ時に、他作品との毛色の違いを感じつつも、最も好きな作品になりました。

今日そのことをふと思い出して作品を読み返し、ネットで「火星航路」を検索してこのブログにたどり着きました。
少し古い記事とは思いつつも、文章表現力のない私の感想を適切に表現されていて嬉しくなり、コメントさせていただきまいた。
Posted by Ao at 2011年05月08日 23:21
Aoさんこんにちは。
たいした読量もないのに書評なんぞ書いてしまった自分に赤面しています。
それでも書かずにはいられないほどに、当時の俺は感動したのでしょう。
しばらく読書そのものに疎遠となっていましたが、コメントを戴き、また何か読みたいという活字欲求が湧いてきました。
ありがとうございました。
Posted by ひゅうい at 2011年05月09日 00:05
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]
2013/11/12現在、スパムコメント対策のため「コピー」という単語をブロックしています。

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック